この秋から、フランスの19世紀のものを集中的に読み続けている。
系統的に読んでいるわけではない。もう二度と読むこともないだろうから、もう一度だけ読んでおこうか、そんな気もちで、気に入ったものを少し読む。
「いずくへか帰る日近きここちして」かつて見た、映画をもう一度見直すようなものである。
ミュッセに、「五月の夜」という詩がある。「ロミオとジュリエット」に、インスパイアされたらしい。
La fleur de l’eglantier sent ses bourgeons eclore.
上田 敏の名訳がある。
はつざきのはなさうび、さきいでて
さすがに、この詩の美しさをとらえている。この野ばらの花は、自分の芽が萌え出ることを感じている。そんなところが、上田 敏の訳にはある。
19世紀の大女優、エレオノーラ・ドゥーゼは、ヴェローナで、「ロミオとジュリエット」を上演して成功した。まだ、14、5歳だったはずである。
エレオノーラは、ヴェローナ出身ではないが、イタリアの女優にとって、ヴェローナで成功したことの意味は説明しなくてわかるだろう。
「ロミオとジュリエット」は、ヴェローナの恋人たちの物語だから。
最近の私は、そのあたりのことを調べている。
「ロミオとジュリエット」は、グノーによってオペラ化された。この初演は、1867年、パリの「リリック劇場」だった。このオペラは、パリの万博の期間に発表されたため、たちまち大入り満員の盛況を見せた。これが、7月に、ロンドンの「コヴェント・ガーデン」で上演されて、イギリスをはじめ、ヨーロッパ各国で、「ロミオとジュリエット」が競演された。
1873年のエレオノーラ・ドゥーゼの公演は、この「ロミオ」フィーヴァーを背景にしていた。そして、ヴェローナでの公演は、期せずしてバレエに対する演劇の反撃だったことになる。
1867年というと、慶応3年である。
孝明天皇、崩御。明治天皇、践祚。
高杉 晋作、没。
岩倉 具視、薩摩・長州とともに、討幕、王政復古を決す。
坂本 龍馬、暗殺。
こんな時代に、オペラ「ロミオとジュリエット」が初演されたのか。私は、この事実になぜか心を動かされた。
(つづく)