「宝島」には「動き」と「色彩」、そして、さまざまなコントラストが見られる。
冒険小説としての「宝島」のテーマは「宝探し」が中心になっているが、地図に隠された秘密の解読、宝の争奪のサスペンスを成立させるために、スティーヴンスンはいろいろな作家から「借用」している。
ワシントン・アーヴィングの「ビリー・ボーンズ」。「宝島」の冒頭の「小道具」や、オープニングの展開に、アーヴィングの影響が見られる。
エドガー・アラン・ポオの「黄金虫」。「骸骨島」の名前や、海賊の「スカル・アンド・ボーンズ」の旗に。
「ジョン・シルヴァー」の肩にとまっているオーム。これは、ダニエル・デフォーの「ロビンソン・クルーソー」とおなじ趣向。むろん、「ロビンソン・クルーソー」の場合は、絶海の孤島に生きる男の孤独を慰め、かつ、孤独をつきつけるトリだが。
海賊どもの唄に出てくる「死人の箱」(デッドマンズ・チェスト)は、チャールズ・キングズリから頂戴したもの。
島の砦は、海洋ものの先輩作家、マリアットの「マスタマン・レデイ」。
これに、スウィフトの「ガリヴァー旅行記」。
チャールズ・ジョンソンの私記、「世にも悪名高き海賊/略奪・殺戮大概」の写本。
今なら、こんな部分の利用だけでも、ジャーナリズムはスティーヴンスンの盗作として騒ぎ立てるかも知れない。
スティーヴンスンは小説に必要な「雰囲気作り」のために、ごく一部を「利用」したとみていい。もとより「盗用」とか「パクリ」といったものではない。
げんに、ポオにしたところで、「ゴードン・ピム」は、ベンジャミン・モレルの回想を粉本にしている。
スティーヴンスン以後に、ライダー・ハガード、アーサー・ランサムなどの、少年冒険小説があらわれる。
現代のファンタジーの、狭い空想の世界、神話的な衣裳の下にひそむおぞましくも卑小な恐怖のイメージより、19世紀の作家たちの、いきいきした空想と冒険のほうがずっと現実的、かつファンタスティックなのだ。