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和田垣 謙三先生の随筆を読んでいて、こういう俗謡にぶつかった。

「竹に雀は しなよく とまる とめてとまらぬ色の道」

これを、英国の粋人、J.J.C.クラークが訳した。

The sparrows perch on the bamboo tree,
And fly away,
But 0nce perchs upon my heart,
”T is there forever,

この訳は、「家庭のミスター&ミセズ・ジャパン」という本に出ているとか。

随筆を書いたのは、経済学者の和田垣 謙三。万延元年(1860)~大正8年(1919)。草創期の東大、経済学部の基礎を作ったえらい先生。
先生は「その訳し方は如何にも大胆なれども、free translation としては、絶妙なり」と評されている。

和田垣先生は、英、仏、漢の語学の大家で、ご自分でも、和歌、俗謡の英訳を試みていたらしい。粋な学者だったのだろう。訳例をあげてみよう。

「鐘が鳴ります 上野の鐘が 引いた霞の消えぬほど」

How soft sounds the bell,・・・
The bell of Ueno Hill,
So soft as not stir
The haze that overhangs the Hill.

ついでに、もうひとつ。

別れの風だよ あきらめしゃんせ
いつまた逢うやら 逢わぬやら

Farewell my love!
What a cruel breeze that parts us asunder!
’Tis fate decides our destinies;be resigned,my love!
When shall we meet again or shall we never? Farewell once more,my love!

昔の学者はえらいなあ。私など、足もとにも及ばない。   (つづく)