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キャサリン・マクフィーの美しさは、ただたんに、女性的なおもざしの美として映るだけにとどまらない。おなじ女優でも、キャサリンのような声は、深く心にきざまれる。
美しい女はその美によって人の心を支配する。
ミーガン・ヒルティのほうが、いつもマリリンをパロディしている。ふつうのブロンドから、アッシュ・ブロンドまで、さまざまに変化した「マリリン」に似ている。
だが、キャサリンのような「黒い髪というよそおい」は、ある種の男にとっては、エロティックなオブセッションになる。
ミーガンの「アイヴィー」も、じつは「マリリン」に似ていない。「マリリン」に似ていないのに、キャサリンよりも「マリリン」に似て見えるのは――濃い口紅、ブロンドのウィグが、「マリリン」の魅力として訴えてくるからだろう。
母親が、ブロードウェイの大スターという設定で、自分は下積みのコーラスガールとして生きてきた。誰とでも寝てしまうパーティー・ガール、安手な娼婦のようなキャラクターだが、極度に起伏のはげしい感情を、なんの妥協もなしにその頂点まで生き抜こうとする。ブロードウェイの下積み女優。
ミーガン・ヒルティのむっちりした体型、ふくよかな乳房、輝くようなブロンド。燃えさかる炎のような気質は、「マリリン」という「役」に重なってくる。
ドラマの前半の「カレン」は、「マリリン」の不器用さ、臆病さ awkwardness を感じさせるのに、「アイヴィー」は、ブロードウェイで生き延びて行くのに必要な、努力と才能をじゅうぶんに身につけている女優の賢さ、悪くいえば、ずるさが目立ってしまう。つまり「悪女」タイプに見えてくる。
ミーガン・ヒルティの声、歌唱力も抜群で、劇中の「スター/マリリン・イメージ」に近い。概念的には、ありきたりのブロードウェイ・ミュージカルの、けばけばしいエロティシズムをみごとに体現している。
あるミュージカル女優のことば。
I shake my tits a lot.If you don’t want
to listen,you can just watch.
ベット・ミドラー。むろん、「SMASH」にはなんの関係もない。
ミーガン・ヒルティは、タイプとして、このベット・ミドラーに近いかも。