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マリリン・モンローという女優は、どこに魅力があったのだろうか。
「SMASH」で、「カレン」(キャサリン・マクフィー)がいう。
マリリンは、上唇をうごかさないで声を出す、と。
なるほどと思った。
マリリンの魅力の一つは、セリフの独特のエロキューションにある。相手のセリフをひきとつてから、瞬間的に呼吸をととのえるといった感じのもので、舌ったるい、そのくせ、エロティックなものだった。
キャサリン・マクフィーは、マリリンらしい不器用さ、臆病さ awkwardness を感じさせる。キャサリンの演技はその「マリリン」を出している。それを「ヘタ」な女優と批評されたら立つ瀬がないだろう。
キャサリンは、いつもひかえめで、ごく自然な演技を見せている。いい例は、演出家、「デレク」が、(マリリンとアーサー・ミラーのシーンで)はじめて「カレン」に「マリリン」を見るシーン。これは、「デレク」のファンシー(幻視)であって、彼か実際に見ているのは、「マリリン」の行動を支配したいという欲求なのだ。
キャサリンの歌がうまいだけに「演技」は見えないのだが、じつはキャサリンの自然な演技がプラスになる。
逆に、第12話の、インド舞踊のシーン――これは、「カレン」のファンシー(幻視)で登場人物が全部出てくる。キャサリン・マクフィーは、じゅうぶんに魅力的だが、ドラマのシーンとしては、不必要な(インドに対する関心)お遊びにしか見えない。
スピルバーグの会社がインドの巨大な映画資本に買収されたという。そのせいだろうか。
キャサリンが、「ヘタ」な女優に見えるのにはもう一つ別の理由がある。
ほかの俳優、とくに「フランク」(ブライアン・ダーシイ・ジェームズ)、「デイヴ」(ラザ・ジャフリー)などが、いかにもメソッド俳優といった芝居を見せる。「ジュリア」の不倫を知った「フランク」は、まるでサイレントの喜劇俳優、ハリー・ラングドンのようなご面相で、メソッドまる出しのクサい芝居をやってみせる。
第4話、故郷のアイオワで、友人たちとカラオケで歌うあたりのキャサリンの演技はほんとうに自然でいい。かえって、いかにもブロードウェイの練達な舞台俳優といった父親の芝居のほうがクサい。
「SMASH」で、不倫と家庭の破局 Break up に悩む「ジュリア」(デブラ・メッシング)は、たしかな演技力をみせるが――ドラマで「ジョー・ディマジォ」に起用された俳優(ウィル・チェース)との「関係」が復活し、家庭に風波が起きてしまうというメロドラマなので、女優としては「もうけ役」、少し実力のある女優なら誰がやってもウケる「芝居」に過ぎない。