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オリンピック劈頭から、日本人としては見過ごすわけにいかないことが起きた。

ロンドン・オリンピックの開会式に、日本代表も参加した。当然のことである。ところが、あの大祝典のなかに日本代表の姿はなかった。なぜか。

ギリシャからはじまって、アルファベット順に各国の選手団がつぎつきに場内に登場する。満場の歓呼と喝采にオリンピックの祭典は揺れつづけていた。日本はジャマイカにつづいて登場した。
選手団は場内をぐるっと行進して、開会式に列席するのだが、日本の選手団が入場して最初のコーナーまできたとき、長身の男が出てきて、右手をふって、進行方向を指示した。そのまま直進せよ、という指示だった。
各国のチームには、国名を示すプラカードを掲げた若い女性が付き添っている。このとき、日本チームに付き添っていた女性は、どう対応したのか。
残念ながら、日本の新聞は、この付添いの女性に関してまったく報道しなかった。異変に気がついたテレビ・クルーが、急いで日本チームのあとを追ったとき、一瞬、旗手の吉田 沙保里をとらえていた。
吉田選手は、直進の指示を受けたとき、ちょっと不審な顔をみせたが、付き添いの女性の姿を目で追ったはずである。しかし、うしろから、日本選手がつめかけてくる。
吉田選手は、そのまま指示に従って、直進した。
――結果的には場外に出てしまった。

国際中継のテレビ・カメラは、このときは、もうつぎのチームの入場をとらえていたから、その後、日本チームがどうなったか、日本チームだけが競技場外に出てしまったことをまったくつたえなかった。

日本のジャーナリズムは、このハプニングをとりあげなかった。(翌日の新聞は、どの新聞も大々的に、開会式の模様をつたえていた。ほとんどが開会式の盛り上がった雰囲気を伝えていたが、日本チームが「コケ」にされたことをとりあげなかった。
(開会式当日が、日曜日だったことを考えれば、各紙の記者があらかじめ「予定原稿」を書いておいて、それを送ったのではないかと私は想像する。あるいは、現場にいて、何も見なかったのか。本社のデスクが、テレビ中継だけを見て、原稿を整理したか。)

NHKは、この夜、テレビ・ニューズで、ほんの数分、この「ハプニング」をつたえたが、その後はまったく報道しなかった。(私は報道局長以下、ニュース担当の全員の責任を問うだろう。)

日本選手団の場内行進がまだ一周もしないうちに、何者かが、行進の進路を変えて、日本選手の旗手(吉田 沙保里)をたばかり、日本選手団はそのままEXITに出て、競技場の外に出てしまった。
かりにも、一国を代表する選手団全体の列席を、故意にオミットすることが許されていいのか。
日本側は国際オリンピック委員会に抗議したが、ごく簡単に、誠に遺憾な手違いだった、という趣旨の謝意が返答だったらしい。

私は、日本選手団の行進の妨害は――はじめから仕組まれた悪意ある行動と見る。

ロンドン警視庁は、ただちにこの犯人を検挙して、その行為の違法性をただすべきだった。(テレビには「犯人」がはっきり撮影されていた。)

(これは、オリンピックが終わったあと、尖閣諸島をめぐって、反日機運が高まった中国で、日本大使の乗用車が2台の高級車に進路を妨害され、国旗を奪われた事件に劣らない「侮辱行為」である。  後記)