「7日間の恋」で、「シビル・ソーンダイク」を演じたジュデイ・デンチも、短い出番ながら、さすがに名女優らしい芝居をみせている。
これに対して、「ローレンス・オリヴィエ」、「ミルトン・グリーン」をやった俳優たちの魅力のないこと、おびただしい。
とくに失望したのは、「ローレンス・オリヴィエ」をやったケネス・ブラナーだった。もともと大根役者だが、この映画では、とてもローレンス・オリヴィエに見えない。(「サウンド・オブ・ミュージック」のケネス・ブラナーは、もう少しましな俳優だったが、いまや見るかげもない。)
「7日間の恋」とはまるで違う映画だが、ロンドンの大女優の孤独といやらしさを描いた「華麗なる恋の舞台で」(イシュトバン・サボ監督)や、黒人の歌手、ティナ・ターナーを描いた「ティナ」(ブライアン・ギブソン監督)を思い出した。
「華麗なる恋の舞台で」はアネット・ベニング、ジェレミー・アイアンズの主演。
ジェレミー・アイアンズが、みごとにアネット・ベニングを立てていた。こういう俳優に比較すべきではないが、ケネス・ブラナーはジェレミーに遠く及ばない。
それほど優れた映画でなくても、ある部分が、いつまでも心に残る映画はある。この映画、「7日間の恋」はそんなものの一つ。
「7日間の恋」は、もうどこでも上映されていない。最近の映画の「運命」ははかないものだ。
「7日間の恋」につづいて――「アーティスト」を見た。この映画は、本年度のアカデミー賞・作品賞ほか、数々の賞に輝いている。当然、私も期待するところが大きかった。
結果的には、この映画は私の期待をみごとに裏切った。
私は、「アーティスト」を見て、ジョン・ギルバートや、ラモン・ナヴァロたちのたどった悲惨な人生を考えた。
悲しみを甘受していれば、悲しみは心から離れない。
ジョン・ギルバートは、オリンポスの高みからころげ落ちて、酒に溺れた。最後は、自殺に近い状態で死ぬ。ラモン・ナヴァロは、老いさらばえて、裏町の路地で、わかい黒人の強盗に刺されて死ぬ。悲惨な末路だった。
むろん、「アーティスト」にはそんな悲惨はない。
こんな程度の作品が、アカデミー賞の作品賞に選ばれるというのはおかしい。これが、ウディ・アレンや、ビーター・ボクダノヴィチの演出だったら、はるかにすばらしい映画になっていたにちがいない。
旧ソヴィエトの映画監督、ニキータ・ミハルコフが、サイレント映画時代を背景に、黒海沿岸の町で、無声映画のメロドラマ出演者たちを描いた「愛の奴隷」にさえ比較すべくもない。
この映画を見た人たちに訊いてみたい。
Was it good for you,really?