1365

寒い日がつづいていた2月。
夕方、帰宅の途中、駅前のトンネルの先で、デッサンらしい絵を並べて売っているカップルがいた。

ふたりで、共同でマンガを描いている。ファンタジーもの。
それほど際だって個性的なマンガとも見えなかった。

帰宅の途中、無名の芸術家が自作を路傍に並べて売っている。その絵を見て、ほしいと思ったわけではない。しかし、寒空の下、自分のデッサンを並べている若いマンガ家志望のカップルにエールを送ってやりたかった。

値をきくと、デッサン自体は非売品で、その絵を集めたCD-ROMを売っているという。1200円。すぐに買うことにした。
あいにく5000円紙幣しかなかったので、それを出すと、ふたりがひそひそ何か相談している。女の子が寄ってきて、おつりがないという。
「じゃ、私がどこかでくずしてこよう」
その場を離れた。

近くの本屋で、雑誌を買って、ふたりのところに戻った。
CD-ROMを受けとって、帰ろうとしたとき、女の子がモジモジしながら、別のCDを贈ってくれた。これはそのふたりが作詩、作曲したものらしい。

私は礼をいってそのCDを頂戴した。それだけのことである。

若くて、おとなしいカップルだった。
ふたりが、いつかマンガ家として自立できればいいと思う。