とりあえず、S・E ・ヒントンの4作を翻訳することがきまった。
そして、「コバルト文庫」の「ヤングアダルト小説」シリーズ、初期の作品はほとんど私が選び、翻訳も私のクラスにきていた人たちに依頼したのだった。
当時の私は、ある翻訳学校で、翻訳家を志望する人たちといっしょに勉強していた。
後年、この翻訳学校は有名になるが、当時は、まだ零細企業で、生徒数も少なかったし、現実に翻訳家になった生徒もいなかった。私はクラスの生徒たちに翻訳の機会をあたえるために、いろいろな企画を立てては出版にこぎつけようとしてきたのだった。
私は「コバルト文庫」で「非行少年」(原題「ランブルフィッシュ」)、「続アウトサイダー」を訳した。ヒントンのもう1作、「テックス」は、私が教えていた翻訳学校のクラスでも、もっとも優秀な坂崎 倭に翻訳を依頼した。
私は翻訳を引きうけて、すぐに「山ノ上」ホテルに入った。映画の公開が迫っていた。私は全力をあげて訳しはじめた。
シリーズの一番バッターとして失敗はしたくなかった。
最後の1章を訳し終えたとき、ホテルの窓から夏の夜明けを眺めながら、自分の翻訳は、いちおう合格だろうと思った。
(つづく)