何かに関して自分の意見があくまで正しいなどと主張したことはない。
他人の意見を知って、自分の考えと違うことに気がつく。あまりにも違っていると、思わず笑いだしてしまう。それだけならまだしも、ひそかな軽蔑をおぼえる。
私は――いやらしい。しかも、自分のいやらしさを隠さない。
われながら、不快である。
少し説明したほうがいい。
ヘミングウェイの小説は数多く映画化されている。だが、これは映画化至難な物語(ストーリー)だといわれた「老人と海」――58年、その映画化に成功した。スペンサー・トレイシー主演、ジョン・スタージェス監督で……
これを読んだとき、へぇ、と思った。
『老人と海』は映画化至難な物語(ストーリー)だと、誰がいったのか。たぶん、当時の「業界」の通念としてそう見られていたということだろう。
1958年、ジョン・スタージェス監督がスペンサー・トレイシーの主演で、「老人と海」を映画化した。しかし、あの程度で映画化に成功したといえるのだろうか。
むしろ、どうしようもない駄作だったはずである。
ジョン・スタージェスは、「戦後」に登場した映画監督で、やたらに多作だった。戦後すぐの初期作品は、一本も輸入されていない。日本ではじめて上映された「人妻の危機」(53年)も、短くカットされて、やっと公開されたようなB級監督。
ところが、「ブラボー砦の脱出」(53年)が当たった。主演、ウィリアム・ホールデン、エリナー・パーカー。
この映画で、北軍の将校、ウィリアム・ホールデンはインディアンの襲撃を受けて、右腕に重傷を負うのだが、つぎのシーンでは、包帯をぐるぐる巻きにした左手を肩から吊って、堂々と凱旋する。思わず、眼を疑ったね。(笑)
そして、「0K牧場の決斗」(57年)。
「ワイアット・アープ」(バート・ランカスター)、「ドク・ホリデイ」(カーク・ダグラス)が、「クラントン」一家と、0K牧場で決闘する。ジョン・フォードの「荒野の決闘」には、到底およびもつかないが、それでも、西部劇としては、いい映画になっていた。
この映画で、「クラントン」のいちばん下の息子が、今年亡くなったデニス・ホッパーだった。まだ、少年だったっけ。「イージー・ライダー」、「地獄の黙示録」、「トゥルー・ロマンス」などを思い出す。もっとも、「スーパー・マリオ」のような駄作にも出ているけれど。
さて、「老人と海」だが、これは、まるで期待を裏切った。
スペンサー・トレイシーも、まるっきり漁師に見えない。「白鯨」の「エイハブ」(グレゴリー・ペック)よりもひどい芝居だった。
私にとっては、「老人と海」はCクラス。スペンサー・トレイシーにしても、すべての出演作のなかで最低。これが私の評価。
その後、これを書いた映画評論家の批評をまったく信用しなくなった。この映画評論家にひそかな軽蔑をおぼえるようになった自分がいやらしく思えてきた。いちいち他人の意見に目クジラを立てる自分か不愉快になった。
映画の「老人と海」も、もう忘れてしまったのだが。