1319

 私は、自分の著書、訳書が、ほとんど手もとにない。出版されたときは、著者用に届けられるのだが、親しい知人に送ったりさしあげるので、一冊も手もとに残らない。いずれ1冊ぐらい手に入るだろうと思っているうちに、たいてい忘れてしまう。

 何年かたって、古本屋の棚の隅っこに、自分の本を見つけたりすると、「へえ、こんな本を出したっけ」と感心する。

 最近、ある古書店のカタログで、自分の本や、私が中心になって出した同人誌がリストに載っているのを発見した。

 「XXXXXX」シミ ハガレアト 初版 中田 耕治署名  4000円

 「ヒェーッ、こんな値がついているのか。これじゃ誰も買わねえだろうな」

 「山川 方夫、北村 太郎、中田 耕治、常盤 新平 少イタミ 制作 1/3号」
7000円

 「冗談じゃないぜ、まったく」

 私は、別の本を買うことにした。これがまた、とんでもない高値。届いてきた本を見たら、わずか19ページ のパンフレット。3000円。
 アチャー。

 しかし、おかげさまで遙かな昔をいろいろ思い出した。むろん、ブログに書くほどのことではない。
 当時の私は、英語もろくに、読めなかったが、それでもテネシー・ウィリアムズや、アーサー・ミラーの戯曲などを読みはじめたのだった。

 「制作」は、私を中心にして出した同人雑誌。
 私がお願いして、牟礼 慶子、大河内 令子たちに、詩の原稿をもらった。北村 太郎も、私の依頼で書いてくれたはずである。
 山川 方夫は何を書いてくれたのだったか。
 それにしても――山川 方夫、北村 太郎が、もはや白玉楼中の人となっていることに胸を衝かれた。

 いろいろな思い出がむねにふきあげてくる。思い出すだけでも、腹を切りたくなるような思い出もふくめて。  
   (つづく)