ヴエトナムからの帰り、香港で知りあった女性がいる。
私がしばらくサイゴンにいたと知って、興味をもったらしかった。私は、彼女の案内で、ニュー・テリトリーや、シャーティン(沙田)で遊んだり、いろいろなナイトスポットに行った。ただ、このときはじめて香港ポップスの美しさに気がついた。シャーリー・ウォンが生まれたばかりの頃のこと。まだ、テレサ・テンも登場していない。私は当時の歌姫たちのテープを買い込んだ。
いよいよ、香港から離れるという日に、彼女が
「どうだった?」
と訊いた。
私が、にやにやしたことはいうまでもない。
帰国後、彼女をモデルにして長編を書いた。旅行はたしかに私の想像を刺激したが、私にできたのは外から眺めただけで、香港の内側に入り込み、自分もその一部になるようには書けなかった。