「すばらしい墜落」の最初の短編、「インターネットの呪縛」は、アメリカ在住の女性と、その妹で中国の「現在」を生きている女性を描いて、アメリカと中国をたくみに対比させているように見える。
つぎの短編、「作曲家とインコ」は、オペラの作曲を依頼された作曲家が、映画女優の「恋人」からインコをあずかった。彼女と結婚しようと思っているのだが、結婚が女優生命に影響すると考えているらしく、積極的に話にのってこない。
そんな芸術家どうしの、少しマンネリ化した関係のなかで、もとの飼い主の女優にほとんどなつかないインコ、「ポリ」は、作曲家の肩に乗ったり、掌からエサをついばむほどなついてくる。
作曲家は実在した放浪の楽士をモデルにしたオペラの作曲に熱中する。
ある日、作曲家は原作者に会いに行った帰り、ブルックリンのフェリーに乗る。「ポリ」は、作曲家の肩から離れて、波にむかって飛んでゆく。そして、波の上に落ちてしまう。作曲家は、波間に浮き沈みしているインコを救おうとして、フェリーから飛び込む。
ペットを飼っていて、そのペットが可愛くてたまらないという心情は、誰にも共通しているだろう。ハ・ジンの短編では、どのシーンにも、主人公が作曲している音楽が少しづつ聞こえてくるような作品だった。
「インターネットの呪縛」よりも、いくらか長い短編だが、短編のうまさからいって、この「作曲家とインコ」のほうが上だと思う。
そして、つぎの短編、「美人」が、もっとすばらしい。
(つづく)