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 私は、金言、格言、ときにはアフォリズムなどが好きで、けっこういろいろな人の寸言隻句に興味をもっている。反対に、流行語にあまり関心がない。
テレビの芸人が、そんな流行語の一つ二つを考え出す。それがウケて、人気が出る。私は、別に不快には思わない。そんな流行語はほんのいっとき人の口の端にのっても、すぐに忘れられてしまう。そんなものは芸でも何でもない。だから私は自分では口にしない。

 アフォリズム、警句、格言だって、自分につごうのいい場合に使うのが気になって、私はあまり使わない。

「少年よ、大志を抱け」という言葉は、誰でも知っている。
だが、このことばには、もう一つ、別の言葉がついている。直訳すれば、

 

学生諸君、野心的であれ、善きキリスト教徒であるために。

 

ということになる。私たちは後半の部分をまるっきり無視して、「少年よ、大志を抱け」という部分だけを心に刻みつけたらしい。

「紳士は金髪がお好き」。これは格言ではないけれど、このことばは私たちも知っている。だが、原作者のアニタ・ルーズは、もう少し別のニュアンスをこめて使っている。

 

紳士は金髪がお好き。だけど、ブリュネットと結婚するのよ。

 

 もう一度くり返すけれど――私はアフォリズムが好きだし、いろいろな人の寸言隻句に興味をもっている。

 私の好きなことばは――それを語った本人の人柄、本人の立場などが、すぐに理解できるような言葉。
誰もが使う言葉で語りながら、その人でなければいえないことを語っていることば。

 

有名スターになったとき女優に注ぎこまれる毒ってものがあるのよ。

 

キム・ノヴァクのことば。
ただし、その毒が何なのか、どういうふうに毒が効いて、致死量がどの程度なのか、キムは語らなかったけれど。