昨年の夏、飼い猫の「ゲレ」が老衰で死んだ。2010年の私にとっては、つらいできごとの一つになった。
昨年は猛暑がつづいたが、夏になって、ネコは、しきりに私の身辺に寄ってくるようになった。いつもしきりに鳴いて何か訴えるのだが、それがうるさかった。エサが足りないのだろうか。
私がそんなふうにいうと、老妻は、
「エサは、ちゃんとやってありますからね」
といった。
「ゲレ」があまりエサを食べなくなって1年になる。まったく食べないのではなく、ひどく少ししか食べなくなっている。小皿のキャットフードも、せいぜい大さじに1杯程度。それもやっと食べたり、食べ残したり。
食べ残したぶんをあとで食べれはいいのだが、自分の唾液で小皿が濡れるせいか、残ったぶんには口をつけない。
それに、目がよく見えなくなっているのか。目の前にエサが置いてあっても、よわよわしくないている。
ネコも食欲をなくすような酷暑だった。
ときどき、私に寄ってきて、かるく私の手や腕を噛む。私の注意を惹こうという魂胆だろう。何を訴えようとしていたのか。
そんなことがつづいて――ある朝、私が見ている前で倒れた。そのまま、20分ばかりして絶息した。
哀れだった。
16年の生涯だったから、大往生といっていいのだが、私には打撃だった。
たかがネコが死んだ程度のことで落ち込むはずもなかったが、私はそれまで書いていた小説を中断してしまった。
夏の終わり、私は「動物保護センター」という機関に連絡して、コネコをもらってきた。とても綺麗な白いネコだが、まるっきりダネコである。もらってきた当座は、片手の掌に乗るほどの大きさだったが、今はもう、両手で抱きあげると、たちまち噛みついたり、ひっかいたり。
いまや、いたずらざかりのバカネコに変身している。