すっと読んだだけでは、さほど優れているとは見えない。しかし、人事、風俗に関して、好きな俳句がある。
行く女 袷(あわせ)著なすや にくきまで 太祇
袷(あわせ)は、おもて、裏をあわせて作った着物。つまり、裏地つき。
昔は、四月一日から五月四日まで、そして九月一日から八日までと、着る習慣になっていたとか。つまり、期間限定だったらしい。
「著なす」は、着こなすの意味だろう。心にくいほどの着こなし、という。さぞやいい女だろうなあ。こんな句に思わずうっとりする。
蚊帳に居て 戸をさす腰を ほめにけり 太祇
たいして優れた句ではないが、繰り戸を閉める女の腰にいささか力がこめられて。それを見ている風情は、なかなか粋だねえ。
この夏、尖閣諸島沖で、領海を侵犯した中国の漁船が、日本の海上保安庁の巡視船に故意に衝突した事件が起きた。このとき、官房長官の仙石某が、わが国の外交方針を「柳腰」と唱えた。(’10.9月)私は仙石某の無知にあきれたが――こういうバカはこの句を読んでも何ひとつ見えるはずもない。
彼の後家の うしろに踊る 狐かな 太祇
これまた、なかなかおもしろい。
いたずら好きな人なら、いろいろパロディーできるだろう。