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1929年から、30年にかけての日本映画。

「松竹」は、村上 浪六原作の「原田 甲斐」。市川 右太衛門、鈴木 澄子。
鈴木 澄子は、後年たくさんの怪談映画に主演した女優さん。この頃は、可憐な娘役で、はるか後年、多数の怪談に出るようには見えない。まったく、女はこわいね。

この頃、浪六の人気が高かった。つぎつぎに映画化されている。「東亜映画」が「三日月次郎吉」を、嵐 寛寿郎、原 駒子で。おなじ浪六の『かまいたち』が、澤村 國太郎、マキノ智子の主演で。これは「マキノ映画」。
その「マキノ映画」が、「敗戦の恨みは長し」というロマンス・メロドラマを出している。帝政ロシアから亡命した音楽家と、その門下で音楽勉強に勤しむ日本娘のせつせつたる恋物語。秋田 静一がロシア系のハーフの芸術家。彼の行く手には松浦 築枝。彼はミューズの愛に救われる。別に深い意味はないはずだが――「敗戦の恨みは長し」という題がはるか後年の日本の運命を暗示しているような気がする。

「松竹」の現代劇は、北村 小松の「抱擁」を。岡田 時彦、及川 道子。「アラ、その瞬間よ」などという映画も。及川 道子はいい女優だった。この題名は流行語になった。及川 道子に魅力があったからだろう。
当時、日本はアメリカの大不況の影響を大きく受けていた。(今と似たようなものだ。)だから、「不景気時代」などという映画が作られている。川崎 弘子、斉藤 達夫。
「奪はれた唇」というメロドラマに、渡辺 篤、筑波 雪子。
「女は何処に行く」は、栗島 すみ子、田中 絹代。

「日活」の時代劇では、「大岡政談 魔像編」で、大河内 伝次郎、伏見 直江。
「帝キネ」は、独立10周年記念で、「江戸城総攻め」。大仏 次郎の「深川の唄」を。佐々木 邦の「新家庭双六」に、杉 狂児。
バンツマ(板東 妻三郎)は、大仏 次郎の「からす組」の撮影に入っている。

残念ながら、私は、これらの映画のほとんどを見ていない。     (つづく)