1242

 1929年のベストテン。

「ディスレリー」
「マダムX」
「リオ・リタ」
「ブロードウェイの妖婦」
「ブルドッグ・ドラモンド」
「懐かしのアリゾナ」
「藪睨みの世界」
「チェニー夫人の最後」
「ハレルヤ」

ベストテンなのだからもう1本あっていいはずだが、資料がない。
さすがにこの時期あたりから、私の映画知識も多少はしっかりしてくる。

「ディスレリー」は、日本では「市民宰相」として公開された。主演はジョージ・アーリス夫妻。「マダムX」は、連続活劇のポーリン・フレデリックの「母もの映画」だが、ストーリーは――戦後、ラナ・ターナーがリメイクに出ている。この「母の旅路」で見ている人がいるかも。
「リオ・リタ」は、もともとブロードウェイでヒットしたミュージカルだが、この映画はビーブ・ダニエルズが主演したもの。
「懐かしのアリゾナ」は、ラウール・ウォルシュが撮ったはじめてのトーキー。この頃には、サイレント映画のスターたちが凋落して、ぞくぞくと新人俳優、女優が、ハリウッドに押し寄せている。

このベストテンのなかで、私がいちばん見たい映画は「藪睨みの世界」。じつは、これもブロードウェイでヒットした The Cock-eyed Worldという喜劇。マクスウェル・アンダーソン、ローレンス・ストーリングスの合作。
主演は、ヴィクター・マクラグレン、リリー・ダミタ。
リリー・ダミタは、後年、エロール・フリンの夫人。

マクスウェル・アンダーソンは、やがて『春浅き冬の頃』から大きく発展し、ついには壮大な歴史劇に移ってゆく。(私はマクスウェル・アンダーソンについて、みじかい紹介を書いたことがある。「現代演劇講座」河出書房刊)

そういえば――リリー・ダミタの息子は、ヴェトナム戦争で従軍記者として活躍したが、70年代、冷戦のさなか、ウィーンで取材中に失踪している。当時のソヴィエト側の秘密情報機関による暗殺と見られる。                (つづく)