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其角の句は、じつはとてもむずかしい。私には元禄の俳諧をすんなり理解する力がないからである。

雪の日や 船頭どのの 顔の色

雪が降っている。渡し船に乗ったが、船頭さんの顔は長年の渡世に日焼けして、雪とつよいコントラストを見せている。
なんとなく、ヘミングウェイの『老人と海』の主人公を思い出す。
謡曲の「自然居士(じねんこじ)」の一節、「ああ船頭殿のお顔色」を踏まえての句と聞いても、ふぅん、そんなことなのか、と思う。

子どもの頃、よく遊んだ向島、三囲(みめぐり)神社、絵馬堂の裏に、

夕立や 田を三囲の 神ならば

という句碑があって、其角の名をおぼえた。
そういえば――あのあたりには、十寸見 河東の碑や、長命寺に芭蕉の碑、成島 柳北の碑などがあったはずだが、大空襲で焼け出されてから一度も行ったことがない。

暖かくなったら行ってみようか。