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雪が降っている。
にぶい明るさを秘めた空から、かぎりなく落ちてくる。ときおり、わずかな風に一斉に揺らいで、きた地面に落ちてくる。
あとからあとから、ひらひらと落ちてくる、雪、雪、雪。気の遠くなるような、無限の動き。
私たちは、ただ黙々と歩き続けていた。

下山の途中から、風が出てきて、雪がはげしくなってきた。雪は降りつづけ、視界はただ白く明るい起伏に、雪はぐんぐんひろがって落ちてくる。
コースは間違いないと思ったが、いちめん雪に蔽いつくされて、ただしいコースを選んでいるかどうか、自信はなかった。
眼の前につづく、すでに降りつもった雪の高さが、ついさっきよりもすこし多くなってきたような気がする。
私のうしろに、彼女が歩いている。頭にかぶっているフードが少し斜めになって、全身真っ白に雪がつもってきた。

「少し、休もう」私はいった。

彼女は黙って足をとめた。私は、携帯カップの底に固形燃料を押し込んだ。手袋をとるとたちまち手が凍えて、ライターの火がつけられない。やっと火をつけた。
「このコースでいいのかしら」彼女がいった。手がふるえていた。
「わからない」私はいった。

すでに暗くなりはじめていた。それでも、空から降りつづける雪はいっそう白さをましている。まるで空がくだけたように雪が落ちてくる。空のてっぺんのほうに、なぜか灰色の部分がのこっている。
暗くなって降りしきる雪は、頭上まで近づいてきて、白い無数の渦になってくる。

お湯に、インスタントのティーバッグを入れる。そして、シュガーも。
彼女が、半分ほど飲んで私にカップを返した。残った半分が私の喉に流れてゆく。

「少しキツいかも知れないが、急ごう」

私たちは、もう3時間も歩きつづけていた。下山のコースは、雪が降りつもった岩や樹木の肌にしがみつきながら下りる、危険な箇所が続いていた。最悪の場合、途中で、岩と岩の間にツェルトザックを張って、緊急にビバークしよう。事態はそこまできている。
自分では冷静に行動しているつもりだったが、彼女が疲労していることはわかった。あと、どのくらい歩けるのか。私も疲労しはじめている。
彼女が疲労しきって歩けなくなる前に、ビバークの場所を確保しよう。
彼女をつれてきたことを後悔しはじめていた。

それから、20分後、私は木の根の下に、ふたりがやっともぐりこめる隙間をみつけて、風のなかで、ツェルトをくくりつけた。ふたりで折り重なって、やっと風を避けるような状態で、ずしりと重い彼女の冷えきった感触が、私のからだにつたわってきた。

彼女のふるえがつたわってくる。