多代さんの句をいくつか挙げておく。
影澄むや 江越しに 行きの小松山 多代
黄昏や 馬屋出てゆく 雪の鹿
積雪や 門(かど)は月澄む 細ながれ
よい月の出て 果てもなし 雪の原
起きて先(まず) 雪にしばしや もの忘れ
一見おとなしい、平凡な句ばかり。わざとはぶいたのだが、多代さんには「雪降るや 小鳥がさつく 竹の奥」といった駄句もある。それでも、千代女の句、
初雪は 松の雫に 残りけり 千代
初雪や 鴉の色の 狂ふほど
初雪や 落葉拾へば 穴があく
初雪や 水へもわけず 橋の上
青き葉の 目にたつ比(ころ)や 竹の雪
といった句よりも、ずっとマシに見える。
これもわざとはぶいたのだが、「行く雲の 霰こぼして 月夜かな」という駄句があって、
逆しまに 傘さし出(いだ)す あられかな 多代
あるいは、また、
海越しに 木枯らし吹くや 磯の松 多代
木枯らしの中に走るや 使いの子
などのほうが、
木枯らしや すぐに落ちつく 水の月 千代
よりも、ずっといい。
(つづく)