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毎月、愛読している雑誌がある。
「先端研ニュース」という。

科学専門の小冊子を頂戴している。東大の先端科学技術研究センターが発行している雑誌で、現在の日本の、まさに先端的な科学技術の専門家が、それぞれの研究の一端を要約したり、紹介している。
それぞれの研究室の公開テーマを見ただけで、レベルの高さが想像できるのだが、私にはまったくわからない分野の研究ばかり。
たとえば、「MEMSとバイオナノを綜合した製造技術」とか、「イメージングとエビゲノム創薬」とか、「低炭素社会構築にむけたエネルギー技術」といったテーマは、私などにわかるはずがない。

こういうむずかしい雑誌がどうして私のような、無学なもの書きに送られてくるのか、わからない。だいいち、どなたのご好意によるものなのか、見当もつかない。
ところで、私はただの読者として、毎号、熱心に眼を通している。むろん、ここに掲載されている個々のテーマに関して、私は全く理解できないのだが。
たとえば――ディペンダブルネットワークオンチッププラットフォームの構築。
私の頭では、理解できるはずがない。

太陽電池の研究開発。タンデム・無機系・有機系の太陽電池の開発の現況。
こんなテーマが、私にわかるはずがない。

ところが、私は毎月、この雑誌を愛読している。
じつは、毎号きまって、みごとなエッセイが掲載されているからである。

たとえば――「先端研」でイスラム思想史を研究する。池内 恵先生の報告。

こういうエッセイは、私のまったく知らない分野の専門家が、現在、何をめざしているかを想像させてくれる。
ときには、ご専門を離れて先生がたが気楽に書いていらっしゃるエッセイもあるので、私などにもよくわかる。そういう先生のお考えをたどることから、私なりにその考えを検討してみることもできる。これが、なかなか楽しい。
(つづく)