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古い雑誌を見つけた。1950年、「映画世界」。
50年代の私には読む機会がなかった。こんな雑誌が出ていたことも知らなかった。
この雑誌の観客世論調査という記事。外国人気男女優ベストテン。(1950年11月15日号)。

1. ゲイリー・クーパー    ・ 1. イングリッド・バーグマン
2. ジャン・ギャバン     ・ 2. グリア・ガースン
3. クラーク・ゲイプル    ・ 3. ジューン・アリソン
4. タイロン・パワー     ・ 4. テレサ・ライト
5. ロバート・テイラー    ・ 5. エリザベス・テイラー
6. ジョン・ウェイン     ・ 6. マーナ・ロイ
7. ジャン・マレー      ・ 7. ラナ・ターナー
8. ヴィクター・マチュア   ・ 8. キャスリン・ヘッブバーン
9. ルイ・ジュヴェ      ・ 9. ゲイル・ラッセル
10.スペンサー・トレイシー  ・ 10.ヴィヴィアン・リー

このベストテン、俳優の9位にルイ・ジュヴェ、女優の9位にゲイル・ラッセルが入っている。いやぁ、驚きましたね。
ルイ・ジュヴェは、この時期、「犯罪河岸」(ジョルジュ・クルーゾー監督)、「真夜中まで」(アンリ・ドコワン監督)が公開されたため、このリストに入ったと思われる。
ゲイル・ラッセルが入っているのは、おそらく「桃色の旅行鞄」が当たったせいだろう。いまでも、彼女をおぼえているファンがいるだろうか。

個人的なことで恐縮だが――後年の私は、評伝『ルイ・ジュヴェ』を書いた。1950年、映画の観客世論調査で、ベストテンに入っているとは知らなかった。
女優のゲイル・ラッセルについても、短いモノグラフィー(「エロスの眼の下に」(桃源社/所収)を書いている。彼女がこんなベストテンに入っていることも知らなかった。

1949年から50年にかけて、それまでの空隙を埋めるように、優れた外国映画がぞくぞくと公開された。
ベストテンにあげられている映画を列挙してみよう。

「大いなる幻影」(ジャン・ルノワール監督/37年)
「戦火のかなた」(ロベルト・ロッセリーニ監督/48年)
「ママの想い出」(ジョージ・スティーヴンス監督/48年)
「恐るべき親達」(ジャン・コクトオ監督/48年)
「ハムレット」(ローレンス・オリヴィエ監督/48年)
「平和に生きる」(ルイジ・ザンパ監督/47年)
「裸の町」(ジュールズ・ダッシン監督/48年)
「犯罪河岸」(ジョルジュ・クルーゾー監督/47年)
「しのび泣き」(ジャン・ドラノア監督/45年)
「黄金」(ジョン・ヒューストン監督/48年)

このほか、このリストには入らなかったが、「ニノチカ」、「らせん階段」、「ミニヴォー夫人」、「子鹿物語」、「バラ色の人生」といった映画が公開されていた。

こうした映画を思いうかべるだけで、たちまち戦後のさまざまな風俗や事件が重なってくる。ゲイル・ラッセルをおぼえているファンがいないように、こんな映画のリストから戦後の風俗や事件をまざまざと思い出す世代も消え去っている。