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ある時期、ある女子大の先生だった。けっこう人気のある先生だったらしい。
昼休みに女子学生の「人生相談」にのってやった。「人生相談」というより、相談にきた女の子の手相や人相を占った。
たまたま二、三人を占ってやったのだが、これが評判になって、昼休みの学食で、ひとりで食事をとっていると、女の子が寄ってくる。私の前に立って、
「あのう、お願いがあるのですが……」
もじもじしながら、声をかけてくるのだった。

私の占いはじつに単純な思想にもとづいている。
キミの運命は変わらない。ならば、姿勢を変えること。

女子学生の相談は、兆域にいたらず、ことごとく現在進行形の恋愛か、または近い将来の婚姻の吉凶にかぎられているので、こんなに楽な卜占(ぼくせん)はない。
門前雀羅(もんぜんじゃくら)をなす。中田先生の昼食時間は、易者の出張所になってしまった。ことわっておくけれど、私は相術をよくするものではない。ただ、私の卜定(ぼくてい)は、よろしきことしかつたえなかった。
評判がいいのもあたりまえだろう。

私が見てやった女の子は、二百人以上。
(つづく)