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 女優のアン・トッドは、1940年代から「戦後」にかけて、イギリス映画の大スターだった。
 彼女の文章を見つけた。みじかいものなので紹介してみよう。

    この本に出てくる映画の題名、たくさんの名前、写真にたくさんの思い出がまつわりついていますし、たくさんの喜びを思いうかべます。
    30年代、40年代、50年代の初期――映画の魔法のような時代に生きた女たちなら――身につまされる涙や、ロマンスのスリルを誰が楽しまずにいられたでしょうか。
    感情に無害な「はけぐち」としての「女性映画」は、おもて向きは私たちの大多数にとっての精神的な癒し、抵抗できないものでしたが、もっと重要なことは、社会的な慣習、経済的な抑圧にあった多数の女たちにとって、こうした映画はいっとき現実を逃避する源泉だったことでした。
    傑作、凡作を問わず、こうした映画は、最近の数年を通じて、ふつうの女性の立場の大いなる前進のペースをたもってきたものなのです。
    現在の女性映画は、めずらしい現象です。
    私の仕事だけにかぎっても、かつてのベテイ・デイヴィスや、キャサリン・ヘップバーン、私の出た「第七のヴェール」、「情熱の友」のような大いなる役をあげましょうか。観客のみなさんが私たちを通じてこうした役を生きたのです。
    女優の役柄や、役の内面をつき動かした感情は、消しがたい思い出になって残るのです。40年もたっているのに、私は「第七のヴェール」の有名なシーンが人々の心に深く刻まれていることを思いしらされてきました。私がピアノを演奏しているシーンで、ジェームズ・メースンが、手にした杖を私の両手めがけてたたきつける・・ 一瞬のシーンですが、観客のみなさんはけっして忘れませんでした。
    最近、テレビでこの映画を見てくれたタクシーの運転手はタクシー料金を受けとりませんでした。料金をもらったりしたら、あの映画のイメージが消える、と説明してくれました。
    これが「女性映画」のパワーなのです。
    女性のための映画の黄金期、こうした瞬間に心をときめかしたみなさん・・今でもテレビでごらんになるみなさんがたは――この本が喚び起す歴史、時間に、共感とよろこびをおぼえるものと存じます。
    そして、ここにとりあげられた昔の映画にどっぷりつかっている著者を心から祝福したいと思います。

 アン・トッド。40年代から50年代にかけて、イギリスのトップ・リーディング・アクトレス。後年は、ドキュメンタリー映画の演出をしていた。ただし、私はアン・トッドの映画をそれほど見ていない。なにしろ、イギリス映画はあまり輸入されなかったので。
 マーガレット・ロックウッドや、パトリシア・ロックも。
 残念としかいいようがない。