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 2009年を迎えた。
 みなさんに心からおよろこびを申しあげる。今年が、みなさんにとって、よい年になりますように。

 誰もが感じているように、私もまた、世界的なパラダイム・シフトが起きていると思っている。かんたんにいえば、社会全体の価値観の移り変わりである。こういう事態は、そう何度も起きることではないので、これからの推移はまさに注目すべきだろう。
 私は大正の関東大震災を知らないのだが、その後の不況の影響は知っている。それに、1941年に開始された日米戦争の推移と、敗戦後の日本を見てきた世代である。この時代が、日本の戦前・戦中と、いわゆる戦後の決定的な境界で、人心も生活も一変する。これを、パラダイム・シフトとして見ることはできるだろう。

 世界史的には、パックス・アメリカーナの時代が、別のパラダイムに移行しつつあると見ていいかも知れない。最近のロシアの動き、とくに大統領の任期の延長の決定や、石油、ガスなどの資源を武器にした近隣の諸国に対する姿勢には、紛れもなく大ロシア主義への回帰と、きたるべき資源戦争への準備が認められる。
 中国は、国内に大きな反体制の動きが生じているが、対外的にはますます強大な発言力をまして行く。これに対して中東の産油国は、今世紀末には現在の地位を失うだろう。
 アフリカ諸国は、国家形態の再編成が大きな条件だが、独裁者たちの恣意的な統治が、民族の合意形成をさまたげる。
 グローバル化が進むということは、戦争の危険がいつも存在するということなのだ。このまま事態が悪化しつづければ。いつ、どこで戦争が起きてもおかしくない。私はそう思っている。

 1937年に日中戦争が起きた。連日、出征兵士のために、千人針を、さかり場の道行く女性か縫っていた。手拭いほどの布地に、千人の女性が手づから赤い糸を縫いつける。それが千人針で、その布を肌身につけていれば、兵士は戦死しないと信じられていた。
 私は、街頭で千人針を縫いつけていた女たちを心から尊敬する。ほんとうに、いとしい女たちだったと思う。だが、その千人針を肌身につけていた兵士の多くも戦死した。そのことを心に刻みつけておきたい。

 非正規の労働者が今年の3月までに、約8万5千人が失職するという。再就職先が見つかった人は、そのうち1万7千人の10パーセント強にとどまる。
 2009年は、世界経済の危機と重なって、急速な景気減速、将来がまったく見えない深刻な貧困を作りだしている。だが、もっと困難な時代の到来を予想すべきかも知れない。
 つい先日(つまり、昨年の歳末)に、ホンダがFIから今季かぎりで撤退すると発表した。世界ラリー選手権では、スズキ、スバルが撤退するそうだが、たてつづけに有力企業が撤退する事態をだれが予想したろうか。
 一部のチームのように、年間2億(約180億円)も使いつづければ、いつかは破綻がやってくる。2004年にジャガーが撤退したときに、ホンダが撤退すれば、こんな非運を見なかったかも知れない。
 今年は、もっときびしい年になることは覚悟しておこう。

 こういう、くそおもしろくもない時代に生きるのは、私もきみもおもしろくない。そこで、少し見方を変えれば、これほどおもしろい時代はない。しっかり見届けておくことだ。困難な時代を乗り切るために、何をすればいいのか。その困難を見据えることしかない。

 今年の「中田 耕治ドットコム」では、これまで避けてきたアクチュアルな問題に関しても少し発言しようと思う。もう少し視野をひろげて、今年見たドラマや映画、芝居について書いてみようか。老いのくりごとと受けとられたくないけれど。

 これが私の年頭所感。