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 宝塚星組公演、ミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」は終っている。だから、これは劇評ではないし、ただのひとりごと。気楽に書いている。

 「スカーレット・ピンパーネル」の原作は、いうまでもなくオルツィ(オークシイ)男爵夫人。ミュージカルの脚色、作詞はナン・ナイトン、音楽はフランク・ワイルドホーン。
 星組のメイン・キャストは、「パーシイ」が安蘭 けい、「マルグリート」が遠野 あすか、「ショーヴラン」が柚希 礼音。
 ずいぶん昔の事だが、私の訳した『紅はこべ』を脚色して、宝塚が上演したことがある。これは見なかった。理由がある。宝塚側は上演料も何も、まったくの頬かむりで押し通した。芝居の世界ではよくあることなので私は何もいわなかったが、このことがあってから、ずっと「国際劇場」を贔屓にしたのだった。

 今回の星組の公演は、私にとってはじつに久しぶりだったし、ミュージカルということもあって興味をもった。昭和元禄時代といわれた60年代、「コーラスライン」、「ガイズ、アンド・ドールズ」、「ラブコール」、「チタ・リベラショー」など、日比谷、銀座界隈にかかったミュージカルをのきなみ見て歩いた頃から、ミュージカルのアフィシオナードを気どっていたほどである。
 当時、ご贔屓は保坂 知寿。「キャッツ」に出ていた。「コーラスライン」では「ヴァル」をやっていたっけ。小柄で可愛い女の子だったが、キュンとひきしまったからだから勁いエネルギーが発散されて、「チズちゃん」が踊りだすだけで舞台の色彩が一変するようだった。私は小柄で可愛い女の子が好きなのである。
 そういえば、その後の「チズちゃん」はどうなったのだろう?
 「レ・ミゼラブル」も、「ミス・サイゴン」も、「オペラ座の怪人」もまだ、ミュージカルの地平に姿を見せていなかった時代だった。

 ところで、今回の「スカーレット・ピンパーネル」は、ミュージカルとしては涼風 真世の出た新作「マリー・アントワネット」よりもできがいい。ストーリーの展開が、もともと通俗的なサスペンス・スリラーのせいもあるだろう。主人公(「パーシイ」)は、安蘭 けい。美貌といい、ジェストといい、まったくあぶなげのない大スター。
 ただし、この女優さんは、あれほど大きな器量をもっているのだから、エロキューションに気をくばる必要がある。おそらく、あまりに大きな存在なので、演出家も何もいわないのだろう。ほんのわずか修正するだけで完璧に近づく。
 遠野 あすかの「マルグリート」も、魅力のある女優。オペラでいえば、佐藤 しのぶに近い。
 私としては、柚希 礼音の「ショーヴラン」が気に入った。星組でももっとも将来性のある女優のひとり。原作の「ショーヴラン」は、もっと老獪で、もっといやらしい人物だが、このミュージカルの「ショーヴラン」は、かつて「マルグリート」とともに革命に参加したという設定なので、まさに宝塚的なメナージュ・ア・トロワになる。ということは、安蘭 けいに対抗できるだけのポジションになるわけで、柚希 礼音が、それだけの重みをもち得たということになる。
 私は柚希 礼音のいくつかの特質に注目している。たとえば、エロティシズム。まだ、それについて書くことはないが、またいつか、この女優さんの舞台を見たいと思う。
 星組全体としていいところは、ガヤのひとりひとり、いつも(演技的に)なんらかの工夫をしていること。そういう工夫が舞台に張りをもたらすものだ。バックのひとりひとりの動き、踊り、ミミックリーまで。