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 グローリア・グレアムという女優がいた。もう誰もおぼえていないような女優さん。ビデオ、DVDでも「地上最大のショウ」ぐらいしか見られないだろう。この映画で、グローリアはアカデミー賞(1952年)の助演女優賞をとっている。
 ただし、アカデミー賞なんか、まるで関係のない「悪女」型の女優だった。

 一九五〇年代、私は英語がいくらか読めるようになっていたので、手あたり次第にアメリカの文学作品、通俗小説を読んでいた。雑誌、「サタデー・イヴニング・ポスト」なども読んでいたが、この雑誌に連載されていた小説が映画化された。
 監督はフリッツ・ラング。
 戦前すでに「激怒」、「暗黒街の弾痕」といったアクション・スリラーで一流監督だったフリッツ・ラングは、戦後の私には「扉の蔭の秘密」、「飾り窓の女」の映画監督だった。

 ある巡査の死に疑問を抱いた警部が動きはじめたとき、上司から捜査の中止を命じられる。このことから、警察内部を牛耳るマフィアの動きを知った警部は、車にギャングが仕掛けた爆発で妻が殺され、職も奪われる。復讐のために、警部はマフィアの動きをさぐって、ギャングの情婦に接近してゆく。

 この警部をやっていたのが、「ギルダ」、「カルメン」のグレン・フォード。
 非情なギャングの実態を知って復讐に協力する暗黒街の女。この「情婦」を、グローリア・グレアムがやっていた。