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 はじめて海外旅行から帰ったとき、友人たちからこういう質問を受けた。
 「どうだった?」

 どうだった、というのはどういう意味だろう。思わず、相手の顔をまじまじと見てしまう。すると、相手はきまってにやにやする。
 なるほど、そういうことか、と納得する。さて、どう返事をしたものかと考えてしまう。
 「何もしなかったさ」
 といえば、
 「ウソつけ!」
 ときめつけられる。
 「よかったよ」
 などといおうものなら、
 「そうだろう。やっぱりイイんだろうなあ」
 とか、
 「チェッ! うまくやりやがったなあ」
 などと、羨望ともひやかしともつかないことばを浴びせられる。

 この主の質問には、こっちもにやにやすることにした。相手がどう解釈しようとお気に召すまま、というわけ。うっかり返事をして、ウソつきにされたり、ひやかされたり、どっちにしろ、やりきれない。

 外国旅行で、いちばん印象が深いのは、なんといってもその土地、その土地の女のことである。ふと行きずりに見かけた女でさえ、旅人の心に淡い翳りを落とすことがあるだろう。
 私にしても、旅先の土地で知りあった女たち、ほんの行きずりの女たち、そうした女たちに興味をそそられたことは素直に認めよう。
 そういうことがなかったら、旅情を慰められることもなかったに違いない。

 そういうときだけは、作家になってよかったと思った。