談林から出発した芭蕉の句を読む。
芭蕉の作かどうかわからない句も多いらしいが、真作とされている百句ばかりに、あまりいい句がないという。
たいていの芭蕉研究でも、この時期の、とくに真作かどうかわからない句はまったく埒外に放棄してかえりみられない。
私は研究家ではないので、この時期の芭蕉の句も、けっこうためつすがめつしながら読む。楽しい。
年は人にとらせていつも若夷
春やこし年や行けん小晦日
文ならぬいろはもかきて火中哉
町医師や屋敷がたより駒迎
けふの今宵寝る時もなき月見哉
天秤や京江戸かけて千代の春
武蔵野や一寸ほどな鹿の声
芭蕉、30歳から33歳の句。
句のよしあしよりも、38歳の宗旦、14歳の鬼貫、そして芭蕉の弟子の其角が、23歳で『虚栗』を出したことを思いうかべると、芭蕉の遅い出発、あっちこっちウロウロしている感じがいい。
芭蕉ほどの人でも、世に出たばかりはこうだったのか。