サクラの季節が終わると、いっとき華やいだ気分も消えてしまう。
目の星や花をねがひの糸桜 芭蕉
これは、じつは夏の句らしい。
おや、今日は、糸桜の花が願いの糸に見える。糸桜は、しだれザクラ。
七夕の夜、竿に願いの糸をかける風習があった。五色の糸。「ねがひの糸」と「糸桜」をかけてあるのが趣向。目の星というと眼の病気みたいだが、瞳のこと。これは「七夕」の連想から。芭蕉に叱られそうだが、この句、少女マンガみたいで好きだな。
雨の日や世間の秋を堺町 芭蕉
これは秋。
雨がしとしと降っている。さみしい。
ところが、そんな世間と違って、堺町だけはにぎやかなのだ。なにしろ、日本橋の芝居町なのだから。脂粉の匂い。「雨」のア、「秋」のア、「世間」のセ、「堺町」のサが響きあう。しかも「世間の秋」には、日常に倦きて芝居や色町にくり出す、うきうきした気分が流れている。
談林の頃の芭蕉の作も、けっこうおもしろい。