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 2008年3月、文部科学省は、小・中学校の新学習指導要領を告示した。これは、愛国心を涵養するといった教育改正基本法(改正)と連動しているものだが、そのなかで小学国語に、「神話・伝承を読み聞かせる」という記述が追加されている。これも、総則のなかで、「伝統と文化を尊重」するということの実践と思われる。

 私は、これに賛成する。ただし、愛国心を涵養するといった教育的配慮ならやめたほうがいい。まさか、いまさら、神話を皇国史観に重ねるようなアホウはいないだろう。戦後、記・紀の研究も大きくすすんでいる。
 古代ギリシャでは、ミユトスは、ほんらいは物語であり、広義には話であった。明治時代に「神話」と訳されたことには、おそらく古事記、日本書紀の「神話」なり「伝説」への連想が働いたにちがいない。
 何をもって、人はある物語をもって「神話」とみなすのか。
 これは、おそらくこのことばの揺れ、ないし、発展にかかわるだろうし、その置かれた文脈にかかわる。

 古事記は、日本の歴史資料として、現存する、もっとも古い書物。712年に、太安麻呂の撰によって成立した。上、中、下の三巻にわかれる。その上巻が、神代巻(カミヨノマキ)として、日本神話が展開している。
 上巻は、天地開闢から、海幸、山幸神話。ホデリのミコトまで。
 中巻は、初代天皇といわれる神武の東征。第15代、応神天皇の秋山・春山兄弟のイヅシオトメ(伊豆志袁登売)との婚姻にまつわる話まで。

 下巻は、第16代、仁徳から、第33代、推古まで。歴史の資料としては、第23代、顕宗天皇までで、それ以後は、家系を中心とした略歴をならべたもので、文学として読むことはできない。

 天地開闢から、海幸、山幸神話。ホデリのミコトまで。記・紀が、日本民族の物語であり、「最古の伝承文学」、最高のファンタジーとして、子どもたちに受け入れられるのはうれしい。