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 ジュリエット・ビノッシュ。私にとっては名女優のひとり。日本の女優には、まともにインタヴューに答えられないバカが多いが、ジュリエットは違う。
 少女時代にアイドルはいたのかという質問に答えて、

    ニコラス・レイね。シェームズ・ディーンに、ジョン・フォード。マリリン。
    マリリンはわたしにとって、いちばん偉大な女優だわ。「バス停留所」にはびっくりしちゃった。彼女には、美しくありたいという、すごく強い気もちがあるの。彼女が、あんなにも美しいのはそのせいなのよ。彼女は工夫していたし、何もおそれなかったし、いろんなやりかたをためしていたわ。

 ジュリエット・ビノッシュは、それほど美貌というわけではない。ハリウッドのスター女優にはジュリエットよりずっと美女が多い。しかし、ジュリエットに比肩できるほど演技力のある女優は少ないだろう。戦後のルイ・ジュヴェによる「コメディー・フランセーズ」の「伝統」が、女優ジュリエットに生きている。少なくとも、彼女の基本を作り上げているような気がする。
 「コンセルヴァトワール」での彼女が、タニャ・バラショヴァの薫陶を受けていることから、私の想像はそれほど誤りではないだろう。若き日のタニャは、マルセル・アシャールと親しく、その関係で、いつもルイ・ジュヴェの身近にいた女優、脚本家で、のちに「コメディー・フランセーズ」の新人育成の専門家になった女性なのである。

 ジュリエット・ビノッシュが、ニコラス・レイをあげていることに驚いた。
 ところで――マリリン・モンローはじつに不思議な女優だった。
 スターになってからのジェーン・フォンダが、寝室の壁いっぱいの大きさ(絵でいえば200号以上のサイズ)の、マリリンの写真を飾っていた。ジェーン・フォンダもジュリエットとおなじように、マリリンはいちばん偉大な女優だったと語ったことがある。

 ジュリエット・ビノッシュが、マリリンを大女優と見ていることに、私としては彼女の女優観が見えたような気がする。