クルト・ユルゲンスは名優といっていい。
戦後のドイツの俳優のなかで、いちばん存在感があったひとり。
ハリウッド映画にたくさん出ているが、いまの私がまっさきに思い浮かべるのは、「深く静かに潜航せよ」ぐらい。ドイツ海軍の潜水艦の艦長。この潜水艦を捕捉して、執拗に爆雷攻撃をつづけるアメリカ海軍の駆逐艦の艦長が、ロバート・ミッチャム。
ロバート・ミッチャムは、ずっと後年の「さらば、愛しき女よ」で「フィリップ・マーロー」をやったが、はじめからハリウッドの映画俳優だった。この映画では、クルト・ユルゲンスとぶつかるシーンもない。だから、この映画では芝居で勝負していない。
一方、クルト・ユルゲンスは、狭い潜水艦の内部だけの芝居なので、演技はだいたいクローズショットが多くなる。当然、顔(フェイシアル)の芝居になる。老練、不屈のドイツ海軍の艦長が、全力をあげて敵の爆雷攻撃をふり切って逃げようとする。冷静な艦長がはじめは敵にして、圧倒的な自信をもっていながら、その軽蔑に似た思いが、やがて呪詛、さらには焦燥、怒り、敗北感に代わってゆく。
これが、期せずして、ロバート・ミッチャムの芝居とすばらしいコントラストになっている。