暇をもてあます、ということはない。
ほんの二、三分、誰かの句集を開いて、そのページに出ている句を読む。(短歌はあまり読まなくなった。歌集までとても手がまわらない。)詩集は一度、眼を通しておいて、あらためて読みはじめる。そうしないと頭に入らない。
こんなものを見つけた。
鎌倉の かぢのむすめ
日本の天下の しゃれおんな
しゃれおんなに 油をつけて
オヤ 十五夜の 月を
シャ 鏡にしょ
鎌倉時代の民謡という。
むろん、曲はわからない。メロディーはわからなくても、鎌倉時代の男の眼を惹きつけた「日本の天下のしゃれおんな」の姿。
まさか十五夜のお月さまを鏡にしてその女を映してみたい、とは思わないけれど、鎌倉の鍛冶の娘は、きっと、きりりとした美しい娘だったにちがいない。
合いの手の「オヤ」も「シャ」も感動詞。「シャ」は、さげすみ、あざけりの含意でつかわれることがあるが、ここでは感嘆だろう。あるいは接続の「さて」なのか。
女につけるあぶらがどういうものかわからない。しかし、私としては「あぶら月」を連想する。そう見てくると、いい歌詞だと思う。
春になったら鎌倉に行って、小林 秀雄、澁澤 龍彦、磯田 光一の墓に詣でようか。鎌倉を歩いたところで、鍛冶の娘がいるはずもないが、「日本の天下の しゃれおんな」の二、三人は見かけるだろう。