777

 私の読書遍歴。
 いろいろなものを読んできたけれど、あまり読まなかったのはドイツ文学だった。ドイツ語を勉強する気がなかったせいもある。

 ゲーテ、クライスト、ケラー、ヘッベルなどは読んだ。
 やがて、メーリケ、シュティフター、グリルパルツァーなどを読む。シュティフターの描く少年時代の淡いロマンス、そして挫折などは、私にもわかりやすいものだったに違いない。
 こうした作家を読むことが、やがてランケ、モムゼンなどの歴史学者を読むことにつながった。ただし、これとて系統的に読んだわけではない。
 ブルックハルト、ランブレヒト、ディルタイなどの文化史、精神史なども、私の視野に入ってきたと思う。
 今の私はブルックハルトに批判的だが、彼に敬意を忘れたことはない。

 戦後すぐに、当時まだ現存していたランケの『ドイツの悲劇』を読んで、ヒトラーの独裁を経験しなければならなかったドイツ人の痛切な反省を知って感動した。
 この本と、第一次大戦の「戦後」に書かれたオットー・バウムガルテンの『大戦の人倫的反省』が、戦後、私の魂を揺さぶった。

 好きなドイツの文学者は、ツヴァイク、ホフマンスタール、エリッヒ・ケストナーなど。だれも翻訳しないけれど、オイゲン・ヴィンクラー。私は、この人の「島」という短編がいちばん好きなのである。
 ほかに好きな作品は、フォン・クライストの「チリの地震」。

 自分で翻訳してみたかったのは、ルイーゼ・ウルリッヒ。
 この名前に聞きおぼえはないだろうか。「未完成交響楽」(ウィリー・フリッチュ監督)に出ていた可憐な少女。彼女は、戦後、作家になっている。ただし、ドイツ語の読めない私は彼女に関して何も知らないのだが。