アメリカの映画女優、スザンヌ・プレシェットが亡くなった。(’08.1.19.) ロサンジェルスの自宅で。呼吸器不全。70歳。
スザンヌ・プレシェットといっても、すぐに思い出せる人はいない。1937年、ニューヨークに生まれた。58年にハリウッドで、デビュー。
「恋愛専科」(62年)、「鳥」(63年)などに出た。
「鳥」は、ヒッチコックの代表作だが、主演のティッピー・ヘドレンの典雅な美貌の印象が強すぎて、友人の小学校教師をやったスザンヌ・プレシェットは、あまり印象に残らない。
スザンヌの訃を知って、私は「鳥」を見た。ささやかな追善の意味で。
いい女優だが、ティッピーのような「花」がない。
あらためて、若き日のスザンヌを見ながら、女優の「運命」といったことをぼんやり考えていた。・・
イギリスの女優、ナオミ・ワッツは「ザ・リング」(’02年)で知られている。原作は鈴木 光司のホラー、ハリウッド版リメイク。ただし、原作のヒロイン「貞子」が「サマラ」になっていたが。
ナオミの生まれはイギリスだが、オーストラリア育ち。むろん、スザンヌ・プレシェットとは何の関係もない。
ナオミは何かのオーディションで、当時まだ無名だったニコール・キッドマンと知りあう。ニコールはその後、ハリウッド女優として着実にスターダムにのしあがってゆくが、ナオミはずっと下積みの女優だった。やっと「マルホランド・ドライヴ」でブレイクしたときは34歳になっていた。
あるインタヴュー(2002.11)。当時のナオミがニコールをどう見ていたか、という質問に、
なるべく他人と自分を比較しないようにしていたわ。ついつい嫉妬したり、精神的に危険な状態になってしまうから。むろん、私も人間だし、いつもそういう心がけをまもった、というわけじゃないけれど。
ただ、ニコールのことは、嫉妬するよりも、むしろインスピレーションというか、いい刺激だったわ。同郷の親友がブレイクしたんだから、私だってきっとうまく行くって。
それに、彼女はいつも、
「あなたはぜったいに成功するわ。あきらめないで」
って、応援してくれてたし。
だから、もし、他人と比較したくなったら、ほんのひと握り、幸運をつかんだ人と較べて、自己嫌悪に陥るよりも、逆の立場を考えるようにしてた。世間には、私の暮らしでさえ羨ましいと思う人がきっといるんだわ、って。
私はこのインタヴューを読んで、ナオミ・ワッツに関心をもつようになった。
スザンヌ・プレシェットはティッピー・ヘドレンをどう見ていたのだろうか。今となっては知るよしもない。ただ、「鳥」に出たあと、ティッピーはあっという間に引退してしまうのだが。
スザンヌ・プレシェットの死から、すぐに別の女優の「運命」を考えたり、ひいては、芸術家の「運命」といったことを考える。へんなやつ。私。