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今ではまったく使われない数えかたがある。

 イチジク、人参、山椒に、シイタケ、ゴボウに、剥きネギ、菜ッぱに、ヤツガシラ、クネンボウに、トウナス(かぼちゃ)。

 野菜をズラズラ並べたダケに見える。じつは、1から10までの数詞が符牒化されている。最後のトウナスは、唐茄子南瓜(かぼちゃ)と重ねることが多かった。
 縁日などで茶碗を買うと、商人(あきんど)がこれで茶碗を数える。

 昭和30年代の下町情緒を描いた映画、「3丁目の夕日」が、なぜかノスタルジックな感傷を喚び起こしている。
 戦前の下町育ちの私は、この映画にあまり下町情緒を感じないのだが、この映画よりも少し前、昭和10年代には、どこの町にも、その下町にぴったりの肉屋、魚屋、酒屋、お菓子屋、小料理屋などがあったものだ。

 呉服屋、下駄屋、足袋屋、饅頭屋、荒物屋、雑貨屋、ブリキ屋。現在は、見かけない職種の店。ほとんどが廃業してしまった。
 私の育った戦前の下町は、1942年までは、戦争の影響もまだ大きくなかった。それでも、糸繭の仲買とか、車屋(人力車)、馬力屋、草箒屋、棒屋となると、もうまったく消えてしまったはずである。

 棒屋といっても、テンビン棒や、農家がつかうクワの柄(え)を作る棒屋と、大八車や手車を手がける車大工の棒屋とあった。

 いまでも棒屋はあって、SMプレイ用の道具を作っていると聞いた。なるほどねえ。