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媚薬について調べている。

 トリスタンとイズーの物語は、媚薬を飲んだ男女が宿命的な恋におちいる。
 この物語の媚薬は、どういうものだったのか。いっしょに飲んだふたりは、三年間、離れられない。この期間は、何があろうと、官能のかぎりをつくして愛しあう。一日たりとも離れてはならないし、昼も夜もお互いに見つめあわなければならない。一週間も愛の語らい(性交をさす)ができないと、ふたりとも病気になって、衰弱し、ついには死ぬことになる。

 おそろしい話である。
 だが、愛する女と、三年間、何があろうと、官能のかぎりをつくして愛しあう、という夢想は、たいていの男に共通しているのではないだろうか。

 ほんの三ヵ月も実行できないはかない夢想に過ぎないが。