読者にはじめてドストエフスキーを読むことをすすめるとして、何をえらぶか。その理由は?
ふつうの読者にドストエフスキーをすすめるなら、『作家の日記』にある「農夫マカールの夢」がいい。
とても短いので、読みやすい。はじめから長編を読んで、途中で投げ出すよりは、こういう短編を読んで、ドストエフスキーをおもしろいと思ったほうがいい。
相手が女性の場合、ドストエフスキーはすすめない。おそらく、つまらないだろうから。こんなことを書くと性差別とうけとられるかもしれないが。
ドストエフスキーを読むくらいなら、トゥルゲーネフや、チェホフ、あるいはジェーン・オースティン、ブロンテ姉妹を読んだほうがいい。
チェホフを読むと、たいていの人はこんな小説の一つや二つ、書けそうな気がしてくるかも知れない。だが、けっしてチェホフのようには書けない。
そこで、かりにも作家になろうという人には、ぜひドストエフスキーをすすめる。『罪と罰』を読めば、たちまち小説の一つや二つは書けそうな気がしてくる(だろう)。
そういう無邪気な錯覚から、作家になった人は多いのではないだろうか。
たとえばジッド。劇作家のジャック・コポオ。
たとえば、レオニード・レオーノフ。
とても比較にはならないが、北条 民雄。
ある程度、外国の文学に親しんでいて、まだドストエフスキーを読んでいない人には、『賭博者』あたりを読むことをすすめる。
小説よりもノンフイクションに興味をもっている人には、チェーホフの『サハリン紀行』、ナターリア・ギンズブルグのシベリア強制収容所の回想を読むことをすすめる。もしおもしろいといえば『死の家の記録』を読むことをすすめる。