子どもの頃に耳でおぼえたことば。意味もわからないまま過ごしてきて、ずっと後になってからハタと思い当たる。誰にでもあることだろう。
映画「エノケンの法界坊」のなかで、「ヘラヘラヘ」という奇妙なことばを知った。むろん「法界坊」という軽薄な坊主が何か失敗したり、いいかげんなことをいって失敗をごまかすときに、首をすくめて、ヘラヘラヘッタラ、ヘラヘラヘという。
子どもたちのあいだで流行した。その人気は今のお笑い芸人のキャッチフーズどころではない。
子どもも大人もエノケンの真似をして、両手を小さく前に寄せ、背をかがめて、ヘラヘラヘッタラ、ヘラヘラヘとふざけて、ヒョコヒョコ歩いた。
戦争がすぐ眼の前に迫っていることも知らずに。
江戸時代に「しんぼ幸大寺」という俗謡が上方から江戸にかけてはやったが、それがヘラヘラぶしだったという。歌舞伎の「法界坊」もこれから派生した。内容が猥雑なものだったことは想像がつく。
おたけどん、おたけどん、
おまえのはながいね、唐までとどくね。
ヘラヘラヘッタラ、ヘラヘラヘ
「法界坊」のエノケンは、当時の江戸風俗からヘラヘラぶしをとってきたのだろうと思った。
「しんぼ幸大寺」の「しんぼ」はわからない。
(つづく)