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 秋の雨が好きでも、雨の日はあまり気勢があがらない。
 漢詩を読む。

 閻 選。「河伝」。

  秋雨。秋雨。      秋の雨。秋の雨。
  無昼無夜。滴滴霏霏。  昼となく夜となく。しとしとピッチャン
  暗灯涼箪怨分離。    ともしび暗く 床は冷え 別れをうらみ
  妖姫。不勝悲。     うつくしい 姫君は かなしみにたえない

  西風稍急喧窗竹。    西風はややつよくして 窓の竹をさわがせ
  停又続。        吹きやんでは また つづく
  膩臉懸雙玉。      頬は 涙がながれる
  幾廻邀約雁来時。    いくたびか季節にたがわず 雁のくるときを迎え
  違期。雁帰人不帰。   時にたがい。雁は帰っても 恋人は帰らない

 『花間集』。花崎先生訳をもとに、私が勝手に訳したもの。

 この詩集にあらわれる美姫たちはまさに妍をきそい、紅欄に人を戀し、雲雨の夢をむすび、別れては枕になみだする艶冶の姿を見せている。

 若い頃の私は古典を知らず、中国の詩文に眼をくばることがなかった。外国語の勉強にいくらか時間をついやしていたためもある。
 いまさら後悔してもはじまらないが、その後、ようやく関心をもつにいたった。むろん、ときすでに遅い。