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 さる良家のお嬢さんが、お見合いをなさった。
 いまでも、お見合いという儀式が行われているのか。世事にうとい私は、にわかに興味をもった。お見合いをなさって、二、三日後に、話を聞かせてくれた。

 その日の彼女は和服をお召しになった。しずしずと控えの間にお着きになる。相手の男性が、つぎのつぎの間にひかえている。彼女はここで大きな姿見の前で、わずかにほつれたおくれ髪を直したり、メークをお直しになって、ややうつむいてお母さまのうしろにしたがって、お見合いの間にお入りになる。
 相手の男性は、一流大学を出て、これも有名な商社に勤務している。
 お互いの挨拶が終わって、お嬢さんも顔をあげた。
 男性は、もう三十代で、いわゆるイケメンではないが、いそがし過ぎて結婚相手が見つからなかったらしい。
 「どちらの大学(をご卒業)でしたか」彼が聞いた。
 そんなことは、とっくに知らされているのに。
 「はい、XXの・・」
 あとが出ない。
 「ご趣味は・・」
 「はい、茶道、お花、ピアノも少しばかり」
 あとがつづかない。お互いに沈黙している。シラケた気分。

 私は笑った。いまどき、こんな古風なお見合いがあるのだろうか。

 「それで、どうなったの?」

 彼女が笑った。
 「きまってるじゃないの」
 「え?」

 彼女のほうから誘ったらしい。