よく、こんな批評がある。「……なんて、文学じゃないよ」とか、「……は、ありゃあ芝居になってない」などと。
私は何かに対して否定的であっても、「……は……ではない」といういいかたをしたことがない。
食いものは別。
千葉駅の地下のそば屋。午後の2時過ぎに一杯のカケソバを食った。イヤ、驚きましたナ。
関東ひろしといえども、ここのソバほど不味いものは食ったことがない。
ソバ屋の若い衆が昼どきに半茹でにして、しまっておいたものを、そのまま遅い客に出そうって魂胆でしょう。ツケ汁がまた、まずいのなんの。
チェッ、こんなもののどこがソバだよ。こんなノは、ソバじゃねえや。薬味のそばにねばりついてやがるから、ソバってンだろう。べらぼうめ。
これは、ソバではない。
千葉名物だね、こうなると。千葉においでの皆さんに、ぜひ一度、召し上がっていただきたい、くらいのものでしたな。これだけで、生きていることがうれしくなることうけあい。お店の名前は――
ヤボはよしませう。それをいっちゃあ、おしめえよ。益のねえ殺生を――
揚幕から駕籠で出た長兵衛が、いい心もちにウトウトしているところに、いきなりカゴ屋が、権八の白刃の光を見て、驚き、だしぬけにドシンと駕籠を落として逃げる。それで、長兵衛がハッと眼をさます。
ただならぬその場のようすに、長兵衛がカゴの前方(まえかた)にあたるスダレ越しに、じっと暗闇をすかして権八のようすをたしかめる。
タレをあげてから、いっぱいにからだをのばして、腕組みをして、じっと権八を見据える。
そこで、「お若えの、お待ちなせえ」
伊井 蓉峰が本郷の「春木座」でやった、とか聞きましたが――
これを読んで、ピンとくる人のために。