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 (つづき)
当然ながら、このレィディーはどぎもを抜かれた。
 「まあ、そうなんですか! で、それはなぜでございましょう?」
 「それはですな、奥さま」先生は答えた。「バイロンは男色でして」

 青天の霹靂だった。レィディーは思わずナイフをとり落とし、(モームの表現によれば)この先生をたしなめるかのように、
 「あら、まあ。そんなこと、絶対にございませんわ」
 狼狽しきった彼女は、右側の最高権威に、とりすがるように、
 「そんなことって、ございますでしょうか。間違いですわね?」

 最高権威は沈鬱な声で、
「いや、まったくその通りでございまして。ご質問には、はっきり男色者とお答えしなければなりませんな」

 レィディーは、この夜のパーティーがめちゃめちゃになったため、ただ、もう、「あら、まあ」とか「おや、まあ」とつぶやくばかり。

 左にすわっていた先生は、自分の発言がレィディーを狼狽させ、うろたえさせたことを見てとって、彼女の腕にふれながら、
 「でも、ご安心ください。晩年のバイロンは、過去のあやまちをつぐないました」
 かすかな微笑がレィディーの唇にゆらめいた。
 先生はこうつけ加えた。
 「バイロンは、自分の妹と熱烈な恋愛に陥りましたから!」

 私は、このエピソードがとても気に入っている。こういう話にも、モームらしい辛辣さと、するどい人生観察が見えてくる。モームはこの話を、ずっと後輩の劇作家、ガースン・ケニンにしている。
 私は、こういう話を後輩に聞かせているモームが好きなのである。きっと、苦虫を噛みつぶしたような顔で、おもしろくもなさそうに話していたのではないだろうか。
 オチがいい。

 「楽しく思い出せるディナーパーティーというのは、こういうやつだね」