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女性が、離婚して300日以内に出産した子を、すべて「前夫」の子とする民法の規定がある。
これに対して、例外を認める法案が提出されるはこびになったが、反対が多く、見送られることになった。(’07/4/11)

衆議院議員、稲田 朋美が反対する理由は……
(離婚前に妊娠するような)行為は、法律婚の間の不貞行為は、不法である。実質的に別居しているケース等の例外を保護する場合は、裁判上の手続きでみとめればよい。
ということにある。
また、おなじく衆議院議員、西川 京子が反対する理由は……
この民法規定の見直しによって、婚姻制度が崩壊する危険性がある。
という論点である。

私は、この意見に集約されている考えかた、と同時にこういう意見を「良識」とする見解に反対する。
稲田 朋美がいう「法律婚の間の不貞行為」といういいかたには、離婚した女性への(無意識にせよ)差別がひそんでいるし、こういう発言には戦前に姦通罪を成立させた悪しき法律論、それを「善」と思い込む愚劣な観念がひそんでいる。
離婚は、法的には「婚姻関係終了」である。正式に離婚をすればいいではないか、といわれるかも知れない。しかし、離婚手続きに手間どったり、離婚までのさまざまな葛藤があったに違いないことを斟酌しない意見に過ぎない。
裁判にのぞむ当事者たちの負担もおそらく大きいだろう。

裁判の結果、300日以内に生まれた子を戸籍に入れることが認められても、その戸籍には、前夫の氏名、裁判による手続きまでがれいれいしく記載される。これこそ戦前の戸籍に「私生児」の記載があったこと以上の悪例になる。つまり、国家がその子の生涯にいまわしい「傷」を押しつけ、生涯、屈辱を強制するようなものではないか。
西川 京子が、この民法規定の見直しによって、婚姻制度が崩壊する危険性があると見ているなら、誤りもはなはだしい。よくいっても歴史、社会、性に対する無知、きわめて粗略な思い過ごしである。人倫上、婚姻制度が崩壊することはない。逆にいえば、離婚して300日以内に出産した子に例外を認める法案が提出されたぐらいで崩壊の一歩をたどるほどの制度なら、そんなものはすぐに崩壊してもいいのである。

私が、裁判員制度を手放しでよろこべないのは、この種の「良識」が裁判の審議を支配するのではないか、と危惧するからである。