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「雨の国の王者」さん。きみは書いてくれた。

そんなことはどうでもいい、いまからでも遅くはない。ハードボイルド・ミステリーを書け!」という類の、それでも、わたしの本心の、不遜な注文をメール送信しました。

少し前だったら、私もグラッときたかも知れない。
そろそろ何かあたらしいことをやってみようか、と思いはじめていたから。
しかし、今のところ、とてもミステリーを書く気力も、体力もない。いや、もうミステリーを書く才能がない、というべきだろう。

もう一つ、書いておくことがある。
私がホレース・マッコイをはじめて読んだのは1946年の冬だったと思う。戦後のこの時期に、アンドレ・ジッドがホレース・マッコイを読んでいた。このことを知った私は大きな「衝撃」を受けた。そればかりではなく、やがてサルトルやカミュも読んでいたことを知った。このあたりのことは『ルイ・ジュヴェ』(第六部・第一章)で、ふれておいた。

きみのメールを読んで、一瞬、グラッときたことは事実である。
昔、一時の気の迷いで、長編の原稿を焼き捨てて惜しい気がした(笑)が、どこかで「川崎 隆」を登場させてみようか。そう思った。しかし、これは無理な話だ。たとえ「川崎 隆」が登場したところで、ほんのちょっとした冗談にすぎないけれども。

ふと、蕪村のことばを思い出す。

発句集はなくてもありなんかし。世に名だたる人の発句集出て、日来(にちらい)の聲誉を減ずるもの多し。況んや凡々の輩をや。

お元気で。