アナトール・フランスについて、あまり関心がなかった。
もはや誰にも読まれない大作家であり、時代に対していつも一定の距離をおいて発言していた微温的な思想家、精神のエピキュリアン、おだやかなペシミストとしか見ていなかった。芥川 龍之介が影響を受けたということからの連想が働いたかも知れない。
ただし、芥川は知らなかったらしいが、日露戦争のあと、黄禍論をとなえたことも気に食わなかった。ようするに、アナトール・フランスに関心がなかった。
ある日、こういうことばを知った。
論証によって、「神」を支持し、自分は「神」を所有していると思い込み、「神」にもとずいて生活し、しかも「神」を利用し、神について自分と違ったイメージを抱く人々を危険な存在として弾圧し、自分ははかり知れない叡知を手にしていると断言し、その叡知なるものを拷問によってつたえようとする。そうしたことから、異教はほとんど関係がなかった。少なくとも、ギリシャにおいては。
私はいま現在進行しているイラクの悲惨な状況を思いうかべた。
アナトール・フランスについて知らなかった、むしろ、読み違えていたことに気がついて恥じている。