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へちゃむくれ。
人をののしることば。広辞苑には、そんな程度しか出ていない、むろん、今では誰もつかわない死語。転じて、おへちゃ。
いささか芳しからぬ面立ちの女の子のことを「おへちゃ」と呼んだりする。

少年時代に、よく聞いた。自分でもつかったことがある。
「あいつの姉さん、おへちゃだぜ。こないだ、遊びに行ったら出てきやンの」
どうして、へちゃむくれなのか。そも、いかなる語源からきたのか。知らないままに過ごしていた。まあ、知らなくても不都合はなかったが。

知らないまま長い時間がたった。ある作家の随筆を読んでいて、これが出てきた。
編茶目蓮。へちゃもくれん。
吉原の名代の茶屋に縁のある老人が教えてくれた、という。
江戸っ子が相手をバカにして、よくつかったもの。江戸といっても、山の手のものは江戸っ子ではない。ノ手っ子はやぼな「やの字」の屋敷者。江戸の者とはいわなかった。

編茶目蓮。れんはおそらく連だろう。連中の略。
とにかく、長年の疑問がとけたような気がした。へちゃもくれんはわかったが、どうして、へちゃむくれになったのか。

むろん、見当はつく。ご本人は人並みの美人のつもりでいる。よせやい。へそが茶をわかさァ。お嬢、何かといえば、プイと怒って、むくれる。そこで、へちゃむくれ。

いまなら性差別だなあ。