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冬になると、月に一度はカンピンパンを食べる。
中国。明清の時代から中国の苦力(ク-リ-)たちが食べていたという。だから寒貧飯。その名の通り、さむざむしくて貧しい飯である。

お鍋にサラダ油(ゴマ油をほんの少しまぜてもいい)を入れて、ブタのコマギレ一つかみ、野沢菜をこまかく切って、いっしょに炒める。好みによって、チリメンジャコ、アブラゲ、シイタケ、何を放り込んでもいい。
半分ほど火が入ったところで、水を入れ、ご飯をまぜるだけ。
誰でも作れる。ある有名な作家が食べていたと知って私も作るようになった。

寒貧飯の具はいろいろ工夫してみたが、基本はブタのコマギレに野沢菜がいちばん。
野沢菜の塩分が肉にからみあって味がいい。

冬山に登っていた頃は、前の晩にブタと野沢菜を炒めたものを冷凍しておく。コチコチに固まったものをポリエチレンの袋に入れてザックのポケットに放り込んでおく。
山に登りはじめる。昼食の頃には解凍できて、(まだ冷凍状態でも)その固まりを鍋に乗せ、沢のへりの氷のかけら、雪、ときには貴重な水筒の水を張り、ご飯を入れて、登山用のコンロか焚き火にかけて煮る。
豪雨や、雪でビバークするときも、ツェルトをひっかぶって、ガタガタふるえながら、寒貧飯を作った。

私のおもな登山用品は、アメリカ軍放出の小さなフライパン一個と、スゥィスのアーミーナイフ、ツェルトときめていた。これさえあればもう大丈夫。
このフライパンで、煮炊きからコ-ヒ-、紅茶、ホットケ-キ、どんど焼き、ときには木の芽のてんぷら、何もかも間にあわせていた。

冬、寒貧飯を食べながら、今では登れなくなった山を思い出す。